Storia per riaprire.
「ルカ、ちゃん……?」
あるところに、ずっと眠り続けている姫が居ました。
もう何年も、目覚めてはいません。
姫は待っているのです。
大切にしていたものが、此処にたどり着くことを。
「リリ、こっち」
「待って、ルカちゃん」
綺麗なストレートの髪が、くるりと円を描くようにして空を舞う。
手を差し伸べればその先には、ふわりと心が温かくなるような存在が居た。
ゆっくりと手を取り合えば、それだけで二人は幸せだった。
ルカとリリ。
二人はこの学園内で、非常に目立つ存在である。
整った秀麗な顔立ち、ジェイブルーの瞳、艶やかなノクテュルヌの髪。すらりとしたモデルのようなルカの体系には、誰もが憧れる。
腰まであるシルバーピンクの髪を綿毛のように揺らしながら、レヨンベールの大きな瞳で前者を見つめるのは学園一の美少女と謳われるリリだ。
「ルカちゃん、聞いた?」
「なに?」
「この学園の、不思議なお話」
「ああ……眠り姫のこと?」
「うん」
長く歴史を紡ぐこの女学園には、さまざまな言い伝えや噂が存在した。
時計塔に現れる幽霊、午後三時の音楽室の秘密、カフェテラスの奥に存在する幻の花園、等々。
最近では『眠り姫』の伝説が生徒たちの中では花となっている話題だった。
この学園内のどこかに存在するという、古びた一室。その部屋の中には、一人の少女が眠り続けている。幾ばくの時を超え、ただ一人の少女を待ち続けていると言う。
「本当なのかな……?」
「さぁ、どうかな。どっちにしても誰も見てないんだから、信憑性は低い話だよね」
興味津々なリリとは裏腹に、ルカはいつも何処か、現実を見たがる傾向にある。
「本当だったら……可哀想、ね」
「――どうして?」
「だって……一人でずっと、女の子を待っているんでしょう? 寂しく、ないのかな……?」
「…………」
繋いでいた手が、ふと緩められる。
それに気が付き、リリはルカを見上げた。
「そう……。リリは可哀想だって、思うんだ……?」
「う、うん……。あの、ルカちゃ……?」
振り向いたルカが、とん、とレンガ造りの壁にリリの背中を預ける。彼女の頭上に生まれるのはルカの影。
「――待ってる。ずっと」
ルカの口唇から零れ落ちた言葉は、意味深なもの。
だがリリにはその言葉の意味を、考える余裕などはなかった。
重なり合う二人の影。その形を崩すものなど、この学園内には何処にも居ない。
ルカとリリ。
これは二人の永久(とこしえ)を誓う物語。
待ってる。
例えこの身が朽ち果てようとも――待っているよ。
キミが生命の流転を超えて、生れ落ちるその日を。
ワタシを、見つけてくれるその日を――。